勝持寺の記事のタイトル画像勝持寺(しょうじじ)は、京都市西京区にある天台宗の寺院です。

「み仏の 瑠璃の光の 花の寺 めぐみもひらく ときにあふかな」

このお寺のご詠歌にもある通り、ここは古くからひときわ目を引く綺麗な「花」が咲き誇る名所。

その花こそが、百人一首にもその名歌が残る歌人・西行(さいぎょう)によって植樹された境内の桜。

その桜の花の美しさから、世阿弥(ぜあみ)による能楽作品「西行桜(さいぎょうざくら)」の舞台として現代まで語り継がれているこの勝持寺は、別名「花の寺(はなのてら)」とも呼ばれています。

「能楽作品として語り継がれるほどの花を愛でるなら、勝持寺へ!」

今回はそんな勝持寺を訪れてみました。


勝持寺の歴史

では、まずはじめに勝持寺の歴史と覚えておきたいポイントを一緒に見て行きましょう!


勝持寺の歴史を刻むこま札

お寺の歴史は古く、自伝によるとその創建は飛鳥時代の679年、何と1300年以上の歴史を持ちます。

壬申の乱(じんしんのらん)で勝利した当時の最高権力者・天武天皇(てんむてんのう)が、この地で研鑽を積んでいた修験道の開祖・役小角(えんのおづぬ)に命じて創建されたと伝わります。

天武天皇は、この国の名前を「倭国(わのくに)」から「日本(にほん)」に変更したことでも有名なお方。

ということでこの勝持寺は、日本と言う国の名前が誕生したころからの歴史を紡ぐお寺の一つなんですね。

その後は一時的に荒廃するも、奈良時代の791年に伝教大師・最澄(さいちょう)によって再建され、天台宗(てんだいしゅう)の寺院としての歴史が始まります。


勝持寺の境内

平安時代の1140年には西行(さいぎょう)がこのお寺で出家し、歌の着想を得るために境内に自ら桜の木を植えました。

これが京都西部きっての名桜・「西行桜(さいぎょうざくら)」であり、世阿弥(ぜあみ)が遺したこんな能楽の傑作の舞台にもなりました。

これはむかーしむかしの物語。

桜が好きで好きでたまらない世捨て人として有名な西行という一人のお坊さまがおりました。

西行「あー、人がいない田舎でゆっくりのんびり過ごすかのぅ…。」

西行「そうだ、大好きな桜の木でも植えて日がな桜を愛でつつ過ごそうかのぅ…。

てことで西行さん、せっせと境内に桜の木を植えてお世話をします。

そんなこんなで、境内の桜は毎年綺麗な花を咲かせあっという間に「桜の名所」として知られてしまうことに!


勝持寺の西行桜

西行「あらら、桜の世話をし過ぎたらすっかり桜の名所になってしもうたのぅ…。」

そこで、西行はお花見でこのお寺を訪れることを禁止することにしましたが、その後も花見客は後を絶たず毎年春になると境内は大盛況に。

西行「人を避けてここに来たのに、桜のせいで人が来るようになってしもうたのぅ…。」

こんな状況を嘆いて、西行はこんな歌を詠みました。

「花見にと 群れつつ人の 来るのみぞ あたら桜の 咎(とが)にはありける」

この歌を意訳するとこんな感じでしょうか。

西行「やれ花見だ!と群衆がここに押し寄せるのは、やっぱり綺麗な桜のせいなんだろうのぅ…。」

するとその晩、彼の夢に老いた桜の精が現れて西行に尋ねました。

「桜の咎(とが)とはなんぞや?」

桜の精「西行はん、八つ当たりせんといて・・・。綺麗に咲いて何が悪いんどすか?」

で、続けてこう言いました。

「非情無心の草木に、浮世の咎(とが)はなし。」

桜の精「わしはただ花の性分として咲いとるだけやから、桜に罪は無いんどす。」

で、最後にこう諭したのでした。

「煩わしいと思うもまた人の心。」

桜の精「人づきあいが面倒くさいと思うのも、ひきこもるのも、自分の気持ち次第ですえ?」

西行「むむむ、その通りですのう…。」

そして老いた桜の精は、華麗な舞を舞いながら桜の名所を西行に教えました。 

桜の精「まぁこの状況も気の毒やし、他の桜の穴場を教えますさかい堪忍な。」

西行「おぉ何とまぁお優しい、ありがたやありがたや。」

そうこうしているうちに、西行の夢が覚めましたとさ。

西行「お・・・、夢でしたか。何事も他に八つ当たりするのは良くないですな。

教訓:「責任転嫁や八つ当たりはダメ、ゼッタイ。ゆるーく行こう。」

てな感じの能楽ストーリーの舞台となった場所こそが、この勝持寺です。


勝持寺の石碑

閑話休題。

このように桜の花が大好き過ぎた西行さん、その後は生涯をかけて日本全国の桜の名所を巡りながら数々の名歌を遺します。

「あれ、歌のために日本全国を巡るってどこかで聞いたような…?」

と思った方は鋭い!

実はこの西行さん、かの有名な江戸時代の名俳人・松尾芭蕉(まつおばしょう)がその生涯で唯一あこがれた人物としても有名なんです!

そう、芭蕉が日本全国を巡った有名なおくの細道(おくのほそみち)の旅路は、実はその昔西行(さいぎょう)が旅をした足跡をたどる旅だったとも言われているんですよ!

そんな西行さんゆかりのこの勝持寺は応仁の乱(おうにんのらん)以降はさびれていましたが、江戸時代に徳川五代将軍・徳川綱吉の母・桂昌院(けいしょういん)の寄進により再興が進み、現在に至ります。

おしまい。

勝持寺について

勝持寺の看板

お寺の詳細

住所:〒610-1153 京都府京都市西京区大原野南春日町1194
連絡先:075-331-0601
創建:679年
開基:役小角(えんのおづぬ)
宗派:天台宗(てんだいしゅう)
ご本尊:薬師如来(やくしにょらい)

拝観時間

9:30~16:30(16:00受付終了)

拝観料

大人 400円
中高生 300円
小学生 200円

その他注意点

・上記情報は2017年2月に訪れた際のものであり、変更されている可能性があります。

・毎年「2月」は拝観が休止されます。

・写真/動画撮影可能な場所や、一脚/三脚の利用可否は必ず係員に確認しましょう。

・神社やお寺の正式な参拝方法は以下の記事を参考にしてくださいね。

お寺のWebサイト


勝持寺のパンフレット

では次に、勝持寺の見どころを訪問時の写真を参考に振り返ってみたいと思います!


勝持寺の見どころ

「*印」のついている見どころは有料エリアです。


勝持寺の境内

勝持寺は、京都市西部にある西山連峰と呼ばれる山々の麓に位置します。

最寄り駅は阪急電車の東向日駅ですが、約6kmあり徒歩では2時間ほどかかります。

東向日駅やJRの向日町駅から最寄りの南春日町バス停まで阪急バスが運行されていますので、バスを利用して移動しましょう。


勝持寺の境内

最寄りのバス停から歩くこと約15分、勝持寺の境内に続く階段が見えてきました。

仁王門

勝持寺の仁王門

境内へと続く道を進んでいくと、まず初めに見てくるのがこの仁王門(におうもん)です。

勝持寺境内から少し離れた場所に位置していたため、応仁の乱(おうにんのらん)の戦火を免れたこのお寺に残る最古の建造物です。


勝持寺の仁王門

そのため、建立当時は恐らく鮮やかな朱色に塗られていたであろう建材は、往年の煌びやかさを忍ばせつつ時代の流れを感じさせてくれました。

木造金剛力士立像(重要文化財)

勝持寺の仁王像

仁王門の両脇には、阿吽の金剛力士像(こんごうりきしぞう)が文字通り仁王立ちしていました。

元々この門にあった仁王像は鎌倉時代の1285年の製作と言われる重要文化財ですが、傷みが激しく現在は収蔵庫に納められています。

現在この門におられる像は、勝持寺の隣に位置する願徳寺(がんとくじ)の仁王像を移設したものなんだとか。

参道

勝持寺の参道

仁王門からお寺の境内へと続く参道は良く整備された一本道になっており、特に迷うことなく進むことが出来ました。

勝持寺子院跡

勝持寺の子院跡

最澄(さいちょう)自らが再興したお寺として、その昔この勝持寺には参道脇に沢山の塔頭(たっちゅう)があり賑わっていたんだとか。

現在では、参道の脇にその跡である石垣がわずかに残されています。

南門

勝持寺の南門

参道を上った先、突き当りまで進むとようやく入り口である南門(みなみもん)が見えてきました!


勝持寺の南門

南門には、ここ勝持寺の山号である「小塩山」と「西国薬師四十九霊場」の第四十二番霊場の看板が掲げられています。

東門

勝持寺の東門

因みに南門の外側をぐるりと回ると東門(ひがしもん)がありますが、現在拝観者には開かずの門となっていますので、南門から中に入りましょう!

書院*

勝持寺の書院

南門をくぐって境内に入ると、拝観受付を行う書院(しょいん)が見えてきます。

こちらで受付を行い、書院左手にある境内入口からお邪魔します。

阿弥陀堂*

勝持寺の阿弥陀堂

境内に入って少し歩くと、右手に本堂の阿弥陀堂(あみだどう)が見えてきます。

瑠璃光殿*

勝持寺の瑠璃光殿

本堂の阿弥陀堂の右手に位置し、渡り廊下で連結されている建物がお寺の寺宝を収蔵する瑠璃光殿(るりこうでん)です。

こちらは内部に入ることができ、建物内にはご本尊の薬師如来(やくしにょらい)像などの寺宝が展示されており、間近で拝むことが出来ました!

不動堂*

勝持寺の不動堂

阿弥陀堂の南側、少し高い位置に建てられている建物が不動堂(ふどうどう)です。

お堂の裏手には大きな岩があり、その昔この地で修行していた真言宗の開祖・空海(くうかい)が眼病に悩む人のために祈ったとされる不動明王(ふどうみょうおう)が刻まれています。

そのため、現在でも眼病をはじめとした諸病平癒の御利益があるお不動様として親しまれているんだとか。

鏡石*

勝持寺の鏡石

不動堂に上がる階段の脇には鏡石(かがみいし)が置かれています。

西行(さいぎょう)がこのお寺で出家をする際に、この石を鏡の代わりに使って髪を剃ったという逸話が残されています。

現在はずいぶんくすんでおりとても鏡のように映ったりはしそうにありませんが、その昔は鏡のように美しい石だったのかも知れませんね!

瀬和井の泉*

勝持寺の瀬和井の泉

鏡石の横にある小さな泉が、瀬和井の泉(せがいのいずみ)です。

瀬和井とは産湯に使えるほど綺麗なお水のことで、この大原野の地の水はその昔清和天皇(せいわてんのう)の産湯として使われていたんだとか。

こうした故事により、この「瀬和井」という言葉は枕詞の一つとして数多くの和歌に歌われてきたんだとか。

鐘楼堂*

勝持寺の鐘楼堂

瀬和井の泉がある反対側の境内広場には、鐘楼堂(しょうろうどう)が佇んでいます。

西行桜*

勝持寺の西行桜

鐘楼堂の隣にはこの勝持寺のシンボルであり、「花の寺」と呼ばれるきっかけとなった西行桜(さいぎょうざくら)が植えられています。

さすがに西行が植えた平安時代当時の桜は現存しておらず、現在の桜は三代目なんだそうです。


勝持寺の西行桜

この勝持寺の境内には西行桜をはじめ約100本の桜の木があるため、毎年春になると「花の寺(はなのてら)」の二つ名に恥じない素晴らしい光景を拝むことが出来ますよ!

魚籃観音*

勝持寺の魚籃観音

境内の南西にある池のほとりには、魚籃観音(ぎょらんかんのん)が佇んでいます。

少し聞きなれない観音様だったので調べてみたところ観音様が持つ三十三の顔のうちの一形態で、魚を入れる籠(魚籃)を持つため、この名前がついたんだとか。

魚に関するご加護と思いきや、悪鬼羅刹を除くという力強い加護を持つ観音様でした。

冴野の沼*

勝持寺の冴野の沼

境内の一番南側には、冴野の沼(さえののぬま)と呼ばれる池があります。

「小塩山 松風寒し 大原や 冴野の沼の さえまさるらん」

小塩山からの物悲しい風が吹きすさぶこの大原の地では、この冴野の沼なんて見てるとより一層心まで寒くなっちゃうわ。

この冴野の沼は平安時代の女流歌人、三十六歌仙(さんじゅうろっかせん)にも数えられる中務(なかつかさ)が詠んだ上記の歌の枕詞として有名な池なんだそうです。


以上でこの勝持寺の主な見どころを見て回ることができました!

今回私は紅葉終わりの12月上旬に訪れたため、残念ながら満開の西行桜を見ることはできませんでした。

その代わりに美しい紅葉と、1300年を超える歴史を持つ境内の侘しい雰囲気を十二分に味わうことが出来ました。

「花の寺」の名前通りおすすめの訪問時期はやはり「桜の花が咲く4月上旬」ですが、その場所柄時期をずらしていくと観光客も非常に少ないため、その分西行さんが夢見た「観光客がいない落ち着いた境内」が味わえると思います。(笑)

勝持寺の紅葉


勝持寺の動画

勝持寺の画像


勝持寺の御朱印

勝持寺の御朱印勝持寺では、お寺のご本尊である薬師如来(やくしにょらい)の御朱印を頂きました。

御朱印は書院で頂くことができます。(300円)

勝持寺への行き方/アクセス方法

最寄り駅は「阪急電車 東向日駅」若しくは「JR 向日町駅」です。

いずれの駅からも、目的地へは6km以上あるため駅からは阪急バスかタクシーで移動しましょう!


大阪梅田(大阪)駅から東向日駅へのルート例(電車)

*このルートの最寄り駅としては「阪急電車 東向日駅」が便利です。

乗換え案内サイト

①阪急京都線で「大阪梅田駅」から「東向日駅」へ。

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なんば駅から東向日駅へのルート例(電車)

*このルートの最寄り駅としては「阪急電車 東向日駅」が便利です。

乗換え案内サイト

①大阪メトロ御堂筋線で「なんば駅」から「梅田駅」へ行き、阪急京都線に乗り換え。

②阪急京都線で「大阪梅田駅」から「東向日駅」へ。

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京都駅から向日町駅へのルート例(電車)

*このルートの最寄り駅としては「JR 向日町駅」が便利です。

乗換え案内サイト

①JR京都線で「京都駅」から「向日町駅」へ。

jurinji-04-jp


阪急電車 東向日駅からバスに乗る場合

乗換え案内(バス)

阪急東向日バス停(1番乗り場)」から阪急バス「63/65系統」に乗車、「南春日町」バス停で下車。

バス会社:阪急バス
行先・系統:63/65系統[洛西バスターミナル行き]
乗車バス停:阪急東向日バス停(1番乗り場)
降車バス停:南春日町
運賃:300円
所要時間:約18分


JR 向日町駅からバスに乗車する場合

乗換え案内(バス)

JR向日町バス停(2番乗り場)」から阪急バス「63/65系統」に乗車、「南春日町」バス停で下車。

バス会社:阪急バス
行先・系統:63/65系統[洛西バスターミナル行き]
乗車バス停:JR向日町バス停(2番乗り場)
降車バス停:南春日町
運賃:300円
所要時間:約25分


タクシーで行く場合

東向日駅から:約2,500円(約15分)

向日町駅から:約2,700円(約15分)

京都駅から:約5,000円(約25分)

・タクシー運転手に行き先を告げたい場合

shojiji-35

・タクシーを呼びたい場合

taxi-call

・タクシー配車連絡先(向日町周辺)


勝持寺周辺のホテル検索/予約

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いかがでしたか?

それでは楽しい旅を!